Zen30 (2)ヨットの個性への追求と実現

2.海を知ること

「海を深く知るには、海岸や遊覧船から海を眺めたり、海洋学の本を読んだりするよりも、自力で帆走するのが最も効果的である。

四季を通じて年間500時間以上もヨットに乗り、あらゆる気象、あらゆる海象を身体で経験し、いつも、よりよき予測と、よりよき帆走を目指して努力を重ねれば、1年ごとに目覚ましく海への理解を深め、2,3年も続ければ相当のレベルに達する。

自力で小艇を運航する人は、何日も前から気象の変化に気をつけ、潮流や海流にも気を配るようになる。そして、出港前には気象と海象を予測し、航行中にも予測の修正を続けるはずだ。そのような注意深さは、陸上や大船では実現しにくい。まして家の中での座学とは雲泥の差である。例えば、天気図の上の寒冷前線と、実際に目撃し、身体に感じとった寒冷前線の壮大さ、激しさは、全く別物である。また、予測に気を配ってない人は、その現場に居合わせても、前線接近を見ていない場合が多い。

特に帆走は機走に比べて何倍も、何十倍も、天候、風、波、潮流、海流に支配されるので、機走よりも格段に深く海を知ることができる。それは、徒歩旅行や自転車旅行をすれば、汽車旅行や自動車の旅に比べて、沿道のすべてを何倍も理解できるのと似ている。

海でさまざまな目に出会うことによって、人間自身を知ることにもなる。
大自然の威力の前で、主役として悪戦苦闘するたびに、都会の文明の中に閉じ込められた人間とは全く別な人間性が、自分自身の中にも存在するということを、海が教えてくれるはずだ。そのような、文明の中では退化していた人間の素晴らしさを知ることも、ヨットの基本である。

また、それとは逆に、人間はつまらぬ所で勘ちがいし、情に溺れ、失敗するという弱点も知ることができる。例えば、よく似た地形や灯台が目の前に現われると、冷静な判断を一瞬に失って、すぐに「ここだ!!」と思い込むなど、期待と予測とが簡単に混同される弱点など、「人間らしさの現われ」などと喜んでもいられない現実を知ることもある。

このようにして、海を知るという修業の中で、乗るたびに、船に沿って流れる水、船が作る波や渦、帆に沿って流れる風、波と関連した船の運動性、等々、船と大自然の関わり合いも観察でき、船を知ることにも熟達するはずである。それは、百冊の書籍にも勝る知識となるだろう。」

 

「ヨットの設計」 舵社刊 横山晃著 昭和55年から一部抜粋修正

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