Zen30 (4)ヨットの個性への追求と実現

4. 文明社会の中のヨット

「文明社会の中で、商船や軍艦が船の主役と見られているのは、陸にたとえれば、 トラックと戦車に自然環境を占領されたような感じで、自然愛好家にとっては、不合理というか理不尽な感じが引掛かるのだが、近代文明の国際社会の中で、経済と政治が主導権を持つのは常識なので、経済に奉仕する商船と武力外交や戦力そのものの軍艦などに「船の主役」というレッテルが張られても、やむを得ない世相である事は認めねばならない。
ともかく、商船と軍艦の開発と改良は、世界の主要国の間では国の命運にかかわる事なので、巨大な金と人が動員されて、多くの実験や研究が行われ、その成果は学術の中でも分野を確立し、教育の面でも一部門となった。……それが造船学(船舶工学)である。
商船や軍用艦艇の目的は、ただただ経済と軍事なので、乗る人のためや大自然そのものはどうでもよいという一面を持っている。だから、船の巨大化が有利となると、万難を排して怪物のような、操縦困難な巨大船を作り、高速化が必要となれば、乗員の健康もかまわずに高速化に突進する。しかも行き着く将来は、パイプラインが完成すればタンカーは不要になり、空軍の威力が増せば戦艦は無意味になるという運命を荷いながら、人類全体に有益なのか有害なのかを顧みる余裕も無しにゴリ押しの前進を続けるのが実状である。
要するに、船や軍艦にとって、「人間が乗る事」は目的でなく、「船である事」さえも目的ではない。まして、「海の大自然に忠実である事」などは毛頭考えられていない。

このような商船や軍用艦艇と、全く対照的なのがヨットで、「人間が乗る事」と「船である事」とは、それ自体がヨットにとっては大前提であり大目的なのだ。また、「海の自然環境に忠実である事」も、ヨットのポリシーとして最も重要である。
何千年前、それとも何万年前かも知れない。人類が最初に船を開発した頃は、「水に浮かぶ事」と「移動する事」だけが目標だったに違いない。だが、その目標が遂げられると、直ぐに次の目標、「走る事」、「操縦可能の事」、「風波に耐える事」、そして「人間が水上で生活する事」など、船としての基本的なテーマを追求したに違いない。
この、船としての基本的なテーマは、現代も変わっていないし、海がある限り、水がある限り、そして人類が存在する限り、不変のテーマとして続くに違いない。しかも、経済や軍事が始まる以前の、このような赤裸々な人間の海への進出が、船としては最も健全で最も逞しく、最も好ましい姿だった。そのような、船の本来の姿を正しく伝承し、復原し続けるのがヨットである。それは、帆船の伝承という狭義の意味ではなく、人間と海との赤裸々な接触の場面と生態とを伝承するという意味である。」

「ヨットの設計」 舵社刊 横山晃著 昭和55年 から一部抜粋修正

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